標準引越運送約款条文解説
標準引越運送約款第23条(免責)
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本頁では、標準引越運送約款第23条(免責)について解説しています。
標準引越運送約款第23条は、引越し業者が損害賠償の責任を負わない免責事由について規定している条項です。
標準引越運送約款第23条(免責)の条文
第23条(免責)
当店は、次の事由による荷物の滅失、き損又は遅延の損害については、損害賠償の責任を負いません。
(1)荷物の欠陥、自然の消耗
(2)荷物の性質による発火、爆発、むれ、かび、腐敗、変色、さびその他これに類似する事由
(3)ストライキ若しくはサボタージュ、社会的騒擾その他の事変又は強盗
(4)不可抗力による火災
(5)予見できない異常な交通障害
(6)地震、津波、洪水、暴風雨、地すべり、山崩れその他の天災
(7)法令又は公権力の発動による運送の差止め、開封、没収、差押え又は第三者への引渡し
(8)荷送人又は荷受人等の故意又は過失
標準引越運送約款第23条(免責)の解説
趣旨
本条は、事故があった場合であっても、引越し業者が責任を負わない免責事由を規定しています。
引越し業者は、本条各号の事由による荷物の滅失・毀損または作業の遅れの損害については、損害賠償の責任を免れます。
第1号について
第1号(荷物の欠陥、自然の消耗)は、例えば、家電製品の長期間の使用(後者)などが考えられます。
長時間使っていた家電製品がちょっとした衝撃で故障して作動しなくなったりした場合は、本号により、引越し業者は免責される可能性があります。
第2号について
第2号(荷物の性質による発火、爆発、むれ、かび、腐敗、変色、さびその他これに類似する事由)は、例えば、ガスボンベの爆発、食品のかびの発生・腐敗などが考えられます。
これらの事故によって、事故があった荷物やその周辺の荷物が滅失・毀損した場合は、本号により、引越し業者は免責される可能性があります。
なお、「荷物の性質による」となっていますので、「荷物の性質」によらない場合は、本号には該当しません。例えば、長期間保管するエアコンの室内機を、引越し業者の作業員がエアーキャップなどで密封したによってカビが発生した場合などは、本号には該当しないものと思われます。
第3号について
第3号(ストライキ若しくはサボタージュ、社会的騒擾その他の事変又は強盗)は、例えば、荷物の運送をおこなう貨物列車・航空機・船などがストライキ・サボタージュで動かない場合や、暴動・テロ・戦争などで道路が通行できない場合などが考えられます。
これらの理由によって、作業が大幅に遅れたり、荷物が強奪されたりした場合は、本号により、引越し業者は免責される可能性があります。
なお、ストライキやサボタージュは、一般的には、第三者についてのものであると考えられます。このため、単に引越し業者の作業員がサボったからといって、引越し業者は、本号により免責されることはありません。これは、引越し業者の過失であり、損害賠償の対象となる可能性があります。
第4号について
第4号(不可抗力による火災)は、例えば、落雷による火災(これは第6号にも該当します)、隣の建物からの延焼による火災などが考えられます。
これらの火災によって荷物が滅失・毀損した場合は、本号により、引越し業者は免責される可能性があります。
なお、本号は「不可抗力による」となっていますので、「不可抗力によらない火災」は免責の対象とはなりません。例えば、利用者の荷物を保管していた倉庫に放火された場合であっても、状況によって、不可抗力に該当するかどうかが異なります。
このような場合、耐火性の高い倉庫にガソリンを撒かれて放火されたときは、不可抗力に該当する可能性があります。他方、特に耐火性が高くなく、また、周りに燃えやすいゴミ(新聞、雑誌、タイヤなど)を片付けすに放置していたときは、単なる引越し業者の過失であり、不可抗力に該当しない可能性もあります。
第5号について
第5号(予見できない異常な交通障害)は、例えば、老朽化した水道管やガス管の破裂で、急遽道路工事がおこなわれたり、交通事故があったりして、幹線道路が通行止めになった場合などが考えられます。
このような事態で交通渋滞が発生したことにより、作業が大幅に遅れた場合は、本号により、引越し業者は免責される可能性があります。
なお、本号は「予見できない」となっていますので、「予見できる通常の交通障害は免責の対象とはなりません。例えば、引越し業者が、毎朝渋滞することがわかっている道路を迂回したり、早めに支店を出たりしないで、そのまま遅刻して作業が大幅に遅れた場合が該当します。
これは、引越し業者の過失であり、損害賠償の対象となる可能性があります。
第6号について
第6号(地震、津波、洪水、暴風雨、地すべり、山崩れその他の天災)は、文字どおりの天災の場合です。
このような天災により、荷物の滅失・毀損または作業の遅れがあった場合は、本号により、引越し業者は免責される可能性があります。
なお、「その他の天災」という記載となっていますので、ここに具体的に列挙されている天災以外であっても、本号に該当することがあります。
第7号について
第7号(法令又は公権力の発動による運送の差止め、開封、没収、差押え又は第三者への引渡し)は、例えば、銃砲刀剣類など、一般には所持が認められていない荷物があることが発覚し、警察等に押収された場合などが考えられます。
このような事態により、荷物の滅失・毀損または作業の遅れがあった場合は、本号により、引越し業者は免責される可能性があります。
なお、「公権力の発動」であっても、引越し業者に対する営業停止処分や一般貨物自動車運送事業の許可の取消しなどの行政処分は、単なる引越し業者の過失であり、本号には該当しません。
第8号について
第8号(荷送人又は荷受人等の故意又は過失)は、例えば、利用者の梱包ミスなどが考えられます。
このような利用者の過失により、荷物の滅失・毀損または作業の遅れがあった場合は、本号により、引越し業者は免責される可能性があります。
引越し業者のための注意点:第8号が重要
本条は、引越し業者にとって責任が免除される事由を規定した条項ですから、そのどれもが重要です。
本条では、引越し業者自身の故意・過失以外の事故の原因のうち、実際に引越しの際に発生しそうなもののほとんどが網羅されています。このため、引越し業者は、自身の過失に注意すれば、あまり損害賠償の責任を負うことはありません。
なお、本号のうち、実際に免責される機会が最も多いものと思われるものが、第8号です。このため、特に第8号は重要であるといえます。
利用者のための注意点:自分の過失に注意
本項により、引越し業者の故意・過失によらない場合に事故等が発生したとしても、引越し業者の損害賠償責任は、かなり限定されます。このため、実際に事故が起こった場合であっても、本条各号に該当する原因による事故のときは、補償交渉が難航します。
特に、第8号、つまり利用者の故意・過失については、本号の中でも最も発生しやすい事故の原因です。本号により、利用者のミスによる事故等は、一切補償されません。このため、特に荷物の梱包などの際には、事故が起こらないように、慎重に作業する必要があります。