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標準引越運送約款条文解説

標準引越運送約款第22条(責任と挙証等)

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本頁では、標準引越運送約款第22条(責任と挙証等)について解説しています。

標準引越運送約款第22条は、荷物等の滅失・毀損および遅刻や作業の遅れに関する立証責任について規定している条項です。

標準引越運送約款第22条(責任と挙証等)の条文

第22条(責任と挙証等)

当店は、自己又は使用人その他運送のために使用した者が、荷物の荷造り、受取、引渡し、保管又は運送に関し注意を怠らなかったことを証明しない限り、荷物その他のものの滅失、き損又は遅延につき損害賠償の責任を負い、速やかに賠償します。

標準引越運送約款第22条(責任と挙証等)の解説

趣旨

本条は、引越し業者による荷物等の滅失・毀損および遅刻や作業の遅れに関する立証責任について規定しています。

引越し業者は、荷物等(「その他のもの」=建物等を含む)の滅失・毀損および遅刻や作業の遅れについて、その注意を怠らなかったこと(=自身に責任がないこと)を立証しなければ、損害賠償の責任を負います。

本条は、いわゆる債務不履行(民法第415条以下参照)=契約違反における責任の立証責任を規定した条項です。判例や通説の学説では、債務不履行における責任の立証責任は、債務者(=本項の場合の引越し業者)にあるとされています(大審院判決大正14年2月27日、最高裁判決昭和34年9月17日)。

このため、本条は、あくまで判例や通説の学説の内容を契約上の義務として規定したものに過ぎません。

なお、本項に「損害賠償の責任を負い、速やかに賠償します。」とあるとおり、原則として、引越し業者は、金銭による賠償をおこなわなければなりません。このため、利用者の承諾を得ない限り、修理での対応はできません。

引越し業者のための注意点:ほとんどの事故は損害賠償の対象

本条により、引越し業者は、事故があった場合に、「荷物の荷造り、受取、引渡し、保管又は運送に関し注意を怠らなかったこと」を立証しなければ、損害賠償の責任を免れることができません。

しかしながら、この立証は、非常に困難であるといえます。というのもの、「注意を怠らなかった」証拠を常に備えておくことは、事実上不可能だからです。

このため、免責事項(第23条各号参照)や損害賠償の特則(第24条第1j項第24条第2項参照)に該当したり、よほど特殊な事故(交通事故などの客観的な証拠が残りやすい事故等)に該当しない限り、事故は損害賠償の対象となるものと考えるべきです。

このように、損害賠償の立証責任のリスク(法的に損害賠償を回避しにくいリスク)があるため、なるべく引受を拒否できる荷物は引き受けない(第24条第1j項参照)、第8条第1項の確認をし、注意を払って荷物を運ぶ(第24条第2項参照)という対応が重要となります。

なにより、荷物の梱包・床、壁、エレベーターの養生など、作業の準備を念入りにおこない、事故を起こさない作業を心がけることが重要となります。

利用者のための注意点:「事故があったこと」の証拠を押さえておく

本条は、利用者にとっては、引越し業者の責任を立証する必要がないため、極めて有利な規定であるといえます。本条により、事故があった場合、利用者は、「引越し業者に故意や注意不足(過失があった)」ことを立証する必要はありません。

ただ、本条により利用者が立証しなくてもいいのは、あくまで「引越し業者の責任の有無」についてです。「事故があった」という事実の立証とは別の話です。つまり、場合によっては、利用者は、(引越し業者の作業による)「事故があった」という事実を立証しなければならなくなる可能性もあります。

実際の引越しの事故があった場合は、この点、つまり「引越し業者が起こした事故があった」のかを巡って、引越し業者と話合いをすることになります。

当然ながら、引越し業者は、明確な証拠がない限り、事故そのものの発生を認めたがりません。例えば、床や壁にキズがついていた場合は、元からキズがついてたかもしれない、と考えます。また、家電製品が動かない場合は、元から故障していたかもしれない、と考えます。

このため、「引越し業者が起こした事故があった」という事実を証明するためには、引越しの前の事実と引越しの後の事実を証拠として残しておく必要があります。

例えば、壁や床であれば、作業前のキズがない状態を写真(なるべくフィルム式のカメラで)に撮っておく、という対応が考えられます。また、家電製品などは、引越し業者と一緒に故障せずに正常に動いていることを確認しておくことが考えられます。

このような対応をすることで、引越し業者は、事故があっても、言い逃れが難しくなります。

最終更新日2011年10月20日