標準引越運送約款条文解説
標準引越運送約款第26条第2項(損害賠償の額)
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本頁では、標準引越運送約款第26条第2項(損害賠償の額)について解説しています。
標準引越運送約款第26条第2項は、作業に遅れが生じた場合における引越し業者が負う責任の範囲について規定している条項です。
標準引越運送約款第26条第2項(損害賠償の額)の条文
第26条(損害賠償の額)
1 当店は、荷物の滅失又はき損により直接生じた損害を賠償します。
2 当店は、遅延により生じた損害については、次の各号の規定により賠償します。
(1)見積書に記載した受取日時に荷物の受取をしなかったとき 受取遅延により直接生じた財産上の損害を運賃等の合計額の範囲内で賠償します。
(2)見積書に記載した引渡日に荷物の引渡しをしなかったとき 引渡遅延により直接生じた財産上の損害を運賃等の合計額の範囲内で賠償します。
(3)第1号及び第2号が同時に生じたとき 受取遅延及び引渡遅延により直接生じた財産上の損害を運賃等の合計額の範囲内で賠償します。
3 前項の規定にかかわらず、当店の故意又は重大な過失によって荷物の受取又は引渡しの遅延が生じたときは、当店はそれにより生じた損害を賠償します。
標準引越運送約款第26条第2項(損害賠償の額)の解説
趣旨
本項は、作業に遅れが生じた場合における引越し業者が負う責任の範囲について規定しています。
引越し業者は、①見積書に記載した受取日時に荷物の受取をしなかったとき、②見積書に記載した引渡日に荷物の引渡しをしなかったとき、③①と②が同時に生じたとき―は、いずれの場合も、その作業の遅れにより直接生じた財産上の損害を運賃等の合計額の範囲内で賠償しなければなりません。
本項は、「財産上の損害」と規定されていますので、「精神上の損害」(=いわゆる慰謝料)については、賠償の対象とならないものと考えられます。
また、いずれの場合も、損害賠償の金額は、「運賃等の合計額の範囲内」に限定されています。
「直接生じた財産上の損害」とは
本項の「直接生じた財産上の損害」とは、実際に財産に生じた、いわゆる「直接損害」のことをいいます。
ただ、「直接損害」や「間接損害」という概念は、必ずしも法的に確立した概念とはいえません、どのような損害が本項の「直接生じた財産上の損害」に該当するのかは、作業の遅れの状況次第といえます。
一般的には、作業の遅れにより発生した交通費や宿泊費などを意味するものと考えられます。また、作業が深夜に及んだ場合における、近所の住人へのお詫びに要した費用なども該当する可能性があります。
第1号について
第1号は、荷物の搬出の際における、引越し業者の遅刻などによる作業の遅れについて規定しています。
本号では、「見積書に記載した受取日時に…」とあるため、理屈のうえでは、わずかな遅れであっても、本号に該当する可能性があります。
もっとも、わずかな遅れによって、「財産上の損害」が直接生じることはあまりないものと考えられますので、事実上は、「財産上の損害」が直接生じる程度の遅れが、損害賠償の対象となります。
第2号について
第2号は、荷物の搬入の際における、引越し業者の遅刻などによる作業の遅れについて規定しています。
本号では、「見積書に記載した引渡日に…」とあるため、理屈のうえでは、引渡日の日付が変わらない限りは、本号には該当しないといえます。
ただし、だからといって、日付が変わる直前に荷物の引渡しがあった場合に、利用者に「財産上の損害」が直接生じたときは、本号には該当しないかもしれませんが、第26条第3項に該当する可能性もあります。
このため、日付が変わらないうちに荷物の引渡しがあったからといって、常に引越し業者が損害賠償の責任を負わないとは限りません。
引越し業者のための注意点:作業の遅れ・遅刻の責任は限定的
本項により、作業の遅れや遅刻があった場合であっても、引越し業者は、損害を賠償しなければなりません。
ただ、その賠償の対象は、「直接生じた財産上の損害」であり、その範囲も「運賃等の合計額の範囲内」に限られています。このため作業の遅れや遅刻の責任については、極めて限定的であるといえます。
現実問題としては、よほど大幅な遅刻でもない限りは、利用者に直接の財産上の損害が生じることは考えにくいと思われます。
ただし、利用者が長距離の移動(特に飛行機による移動など)をしなければならない場合に、作業の遅れや遅刻が原因で予約していたチケットが無駄になったときなどは、損害賠償の対象となる可能性があります。
また、受取日時が午後であった場合に、作業の遅れや遅刻により交通機関が終了した後で作業が終わったときなどは、利用者は、やむを得ずホテルなどに宿泊しなければならなくなります。このような場合のホテル代なども、損害賠償の対象となる可能性があります。
このように、法的な責任という意味では、作業の遅れや遅刻は過剰に気にする必要はありませんが、当然ながら、利用者からのクレームに繋がります。このため、作業の遅れや遅刻がわかった時点で連絡を入れるなど、利用者に対する配慮が重要となります。
利用者のための注意点:作業の遅れ・遅刻による損害賠償請求は難しい
本項により、引越し業者による作業の遅れや遅刻があった場合であっても、利用者は、引越し業者に対して、損害の賠償を請求できます。
ただ、その賠償の対象は、「直接生じた財産上の損害」であり、その範囲も「運賃等の合計額の範囲内」に限られています。このため引越し業者による作業の遅れや遅刻のについては、利用者は、極めて限定的な損害の賠償しか請求できません。
引越しの作業は、不確定な要素が非常に多いため、想定どおりに作業がおこなわれずに、時間がかかってしまうことがよくあります。また、荷物を搬出した後の移動についても、交通渋滞などにより、遅くなってしまうことがあります。
このような実態があるため、引越し業者としては、作業の遅れや遅刻について広く損害賠償を認めた場合は事業として成り立たない、という事情があります。
このため、事前に予約していた交通機関の交通費が無駄になった場合や、よほど長時間の作業の遅れや遅刻で終電がなくなり、やむを得ずホテルなどに宿泊した場合など、実際に費用が発生した場合でもない限り、引越し業者から補償を受けることは難しいものと思われます。