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標準引越運送約款条文解説

標準引越運送約款第27条第1項(時効)

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本頁では、標準引越運送約款第27条第1項(時効)について解説しています。

標準引越運送約款第27条第1項は、引越し業者の事故等にもとづく利用者の損害賠償請求権に関する消滅時効の短縮について規定している条項です。

標準引越運送約款第27条第1項(時効)の条文

第27条(時効)

1 荷物の滅失、き損又は遅延についての当店の責任は、荷受人等が荷物を受け取った日から1年を経過したときは、時効によって消滅します。

2 前項の期間は、荷物の全部が滅失した場合においては、見積書に記載した引渡日からこれを起算します。

3 前2項の規定は、当店がその損害を知っていて荷受人等に告げなかった場合には、適用しません。

標準引越運送約款第27条第1項(時効)の解説

趣旨

本項は、引越し業者による荷物の滅失・毀損または作業の遅れがあった場合における、利用者の損害賠償請求権の消滅時効の短縮について規定しています。

引越し業者による荷物の滅失・毀損または作業の遅れがあった場合、利用者の損害賠償請求権は、荷物を受け取った日から1年後に時効により消滅します。

本項では、「当店の責任は、…時効によって消滅します。」となっていますが、消滅時効の制度は、権利が消滅する制度であり、責任=債務が消滅する制度ではありません(民法第167条第1項参照)。

時効期間の短縮は有効

民法上は、時効の利益は、時効が完成する前にあらかじめ放棄することができません(民法第146条参照)。これは、事前に契約書などで時効の利益を放棄できることにしてしまうと、事実上、時効制度の存在意義がなくなってしまうからです。

ただ、時効期間を短縮する契約条件は、有効とされています(会社の定款にもとづく利益配当の支払請求権について。大審院判決昭和2年8月3日)。

本来であれば、本項のような債務不履行に対する債権者の請求権の消滅時効は、10年とされています(民法第167条第1項参照)。しかしながら、本項やすでに述べた判例により、時効期間は、特別に「荷受人等が荷物を受け取った日から1年」に短縮されます。

消費者契約法違反?

利用者が一般消費者であった場合、引越し業者と利用者との契約には、消費者契約法が適用されます。この場合、本項は、「消費者の権利を制限」している規定として、消費者契約法第10条により、無効となる可能性もあります。

引越し業者のための注意点:ひとまず1年経過すれば安心だが…

本項の規定による時効以前の問題として、荷物の滅失・毀損(作業の遅れは含みません)については、その前段階としての通知の期限があります(第25条第1項参照)。

第25条第1項により、利用者が通知しない場合、引越し業者による荷物の滅失・毀損の責任は、荷物の引き渡しの日から起算して3ヶ月後には、消滅します。そのうえで、本項により、引越し業者の責任に対する利用者の損害賠償請求権は、荷物の引き渡しの日から起算して1年を経過した日には、時効により消滅します。

このため、ひとまず荷物の引き渡しの日から3ヶ月を経過するまで利用者からの通知がない場合は、安心して差し支えないといえますし、たとえ通知があったとしても、荷物の引き渡しの日から1年を経過した場合は、安心して差し支えないといえます。

ただ、すでに述べたように、一般消費者が利用者である場合、本項は消費者契約法に反し、無効である可能性も否定できないため、完全に安心できるわけではありません。

また、時効は、利用者の行動により中断することもあります(民法第147条参照)。このため、わざと交渉を長引かせて消滅時効に持ち込むことは、難しいといえます。

利用者のための注意点:早期の通知・補償交渉が重要

本項の規定による時効以前の問題として、荷物の滅失・毀損(作業の遅れは含みません)については、その前段階としての通知の期限があります(第25条第1項参照)。

第25条第1項により、利用者が通知しない場合、引越し業者による荷物の滅失・毀損の責任は、荷物の引き渡しの日から起算して3ヶ月後には、消滅してしまいます。このため、荷物の滅失・毀損の事故があった場合は、直ちに引越し業者に連絡するべきです。

また、その後の交渉が難航して、荷物の引き渡しの日から1年を経過しそうな場合は、時効が成立しないように、法的な手続きにより、時効を中断させることも検討しなければなりません(民法第147条参照)。

このように、時間が経過してしまうと、補償交渉が難しくなる可能性が非常に高いといえますので、事故があった場合は、早いうちに引越し業者に通知して、補償交渉を始めるべきです。

最終更新日2011年10月20日