現在の閲覧ページ

トップページ > 条文解説(目次) > 第3章 運送の引受け(目次) > 標準引越運送約款第4条第1項(引受拒絶)

標準引越運送約款条文解説

標準引越運送約款第4条第1項(引受拒絶)

スポンサード リンク

本頁では、標準引越運送約款第4条第1項(引受拒絶)について解説しています。

標準引越運送約款第4条第1項は、引越し業者による引越サービス全体の拒絶について規定している条項です。

標準引越運送約款第4条第1項(引受拒絶)の条文

第4条(引受拒絶)

1 当店は、次の各号の一に該当する場合には、引越運送の引受けを拒絶することがあります。

(1)運送の申込みがこの約款によらないものであるとき。

(2)運送に適する設備がないとき。

(3)運送に関し申込者から特別の負担を求められたとき。

(4)運送が法令の規定又は公の秩序若しくは善良の風俗に反するものであるとき。

(5)天災その他やむを得ない事由があるとき。

2 荷物が次に掲げるものであるときは、当該荷物に限り引越運送の引受けを拒絶することがあります。

(1)現金、有価証券、宝石貴金属、預金通帳、キャシュカード、印鑑等荷送人において携帯することのできる貴重品

(2)火薬類その他の危険品、不潔な物品等他の荷物に損害を及ぼす恐れのあるもの

(3)動植物、ピアノ、美術品、骨董品等運送に当たって特殊な管理を要するため、他の荷物と同時に運送することに適さないもの

(4)申込者が第8条第1項の規定によるその種類及び性質の申告をせず、又は同条第2項の規定による点検の同意を与えないもの

標準引越運送約款第4条第1項(引受拒絶)の解説

趣旨

本項は、引越業者が利用者からの申込みを拒絶できる事由について規定しています。

引越し業者は、本項各号の事情があったときは、利用者に対する引越しサービスの提供を断ることがあります。

本項にもとづく拒絶が、すでに契約が成立した場合のものか、またはまだ契約が成立していない場合のものかは、必ずしも明らかではありません。

ただ、すでに契約が成立しているにもかかわらず、本項各号の事由(特に第1号から第3号まで)で引越しサービスの提供を拒絶できるとした場合は、引越し業者が不当に引越しサービスの提供を拒絶できることになりかねません。

このため、本項は、まだ契約が成立していない場合のものと解釈するのが妥当と思われます。

第1号について

第1号(運送の申込みがこの約款によらないものであるとき。)は、運送の申込みが標準引越運送約款でない場合に、引越し業者が、引越しサービスの提供を拒絶できる旨を規定しています。

ここでいう「申込み」は、申込者=利用者からの申込みであると思われます。これは、引越し業者からの申込みであるとすれば、随意条件(民法第134条参照)となり、無効となるからです。

なお、事務所等の移転であって、標準引越運送約款を使用しない場合は、引越し業者は、その旨を利用者に対して告知しなければなりません(第1条第1項参照)。

第2号について

第2号(運送に適する設備がないとき。)は、引越し業者に特殊な設備がない場合に、引越しサービスの提供を拒否できる旨を規定しています。

典型的な状況としては、グランドピアノ(第4条第2項第3号参照)、大型金庫、コピー機など、作業員だけでは運ぶことができない重量物を運搬する場合に、これらを運搬する特殊な設備がないときが該当します。

このような場合は、通常は、営業員が現場を下見した際に、利用者に対して、サービスの提供が不可能である旨を伝え、サービスの提供を断ります。

第3号について

第3号(運送に関し申込者から特別の負担を求められたとき。)は、引越し業者が利用者から特別な負担を求められた場合は、引越しサービスの提供を拒否できる旨を規定しています。

ここでいう「特別の負担」の意義は必ずしも明らかではありませんが、「特別」という表現から、一般的な引越しのサービスでは想定しにくいような負担であると考えられます。

例えば、深夜の引越しなどが考えられます。

第4号について

第4号(運送が法令の規定又は公の秩序若しくは善良の風俗に反するものであるとき。)は、引越し業者が、法律違反または公序良俗違反(民法第90条参照)の引越しサービスを拒否できる旨を規定しています。

例えば、密輸のための運送や盗品の運送などが考えられます。

このような場合、(本来は約款に規定するまでもなく)引越し業者は、当然に引越しサービスの提供を拒否することができます。

第5号について

第5号(天災その他やむを得ない事由があるとき。)は、天災などの不可抗力があった場合に、引越し業者が引越しサービスの提供を拒否できる旨を規定しています。

例えば、地震や津波で道路が寸断されている場合などが考えられます。

なお、引越し業者と利用者との契約がすでに成立している場合であっても、このような不可抗力が発生したときは、引越し業者は、第23条により免責されます。

引越し業者のための注意点:特に重要でない規定

引越し業者にとって、本項は格別重要ではありません。

本来、契約自由の原則により、引越し業者には、契約を結ぶかどうかを選択できる自由(締結自由の原則)や、利用者を選択できる自由(相手方自由の原則)があります。

このため、特に本項に規定するまでもなく、利用者からの申込みを断ることができます。

ただし、すでに契約が成立している場合は必ずしもそうとはいえませんので、注意を要します。

利用者のための注意点:特に重要でない規定

利用者にとって、本項は格別重要ではありません。

引越し業界は、業者の数が非常に多く、競争が激しい業界です。買い手市場といっても差し支えありません。

このため、よほど特殊な事情がない限り、引越し業者が引越しサービスの提供を拒絶することはありません(料金面で折り合いがつかない場合を除く)。

最終更新日2011年10月20日