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標準引越運送約款条文解説

標準引越運送約款第9条(荷物の引渡しを行う日)

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本頁では、標準引越運送約款第9条(荷物の引渡しを行う日)について解説しています。

標準引越運送約款第9条は、引越し業者による荷物の引渡しの日について規定している条項です。

標準引越運送約款第9条(荷物の引渡しを行う日)の条文

第9条(荷物の引渡しを行う日)

当店は見積書に記載した引渡日に荷物を引き渡します。また、荷物受取時に、引渡日時を荷送人又は荷受人に対して通知します。

標準引越運送約款第9条(荷物の引渡しを行う日)の解説

趣旨

本条は、引越し業者による荷物の引渡しの日と、当日の時間帯について規定しています。

本項の前段では、荷物の引渡日(=搬入の日)が見積書の記載の引渡日である旨を規定しています。極めて当然の規定です。

また、本項の後段では、荷物を受け取った時点(=荷物搬出が完了した時点)で、引渡日における荷物の引き渡しの時間帯(=引渡日時)について、引越し業者が利用者に対して通知する旨を規定しています。

一日で終わる引越しの場合、引越し業者としては、荷物の搬出が完了するまでは搬入先で荷物を搬入する時間帯が読めません。このため、搬出が完了した時点で、利用者に対して、搬入開始の時間帯を通知します。

ただ、長距離の移動が伴う場合など、一日で引越しが終わらない場合は、すでに見積りの段階で、引渡時日を決めてしまうことがあります。このような場合は、荷物搬出が完了した時点で、その日時を確認するにとどまることもあります。

なお、現実には、交通渋滞等により、本条のとおりに引越し業者が引渡日または引渡日時に荷物を引渡すことができないこともあります。このような場合には、遅刻や作業の大幅な遅れによる補償が問題となることもあり得ます。

引越し業者のための注意点:遅刻や作業の遅れはさほど気にしなくてもよい

引越し業者としては、交通渋滞等により、引渡日時での荷物の引渡しに遅れること(いわゆる遅刻)があります。このため、必ずしも本条を守ることができるものとは限りません。

ただ、遅刻があったとしても、その事情によっては、免責されることがあります(特に不可抗力の場合。第23条参照)。

また、遅刻や作業の大幅な遅れについては、「見積書に記載した引渡日に荷物の引渡しをしなかったとき」が損害賠償の対象となります(第26条第2項第2号参照)。「引渡日時」に荷物の引渡しがなかったとき=単に遅刻したときは、第26条第2項の損害賠償の対象とはなりません。

また、引渡日に荷物の引渡しができなかった場合であっても、遅刻や作業の大幅な遅れによる損害賠償の範囲は、「引渡遅延により直接生じた財産上の損害」であり、しかも「運賃等の合計額の範囲内」となっています(第26条第2項第2号・同第3号参照)。

このため、現実問題としては、引渡日に間に合わなくなるくらいの大幅な遅刻や作業の大幅な遅れでもない限りは、利用者に直接の財産上の損害が生じることは考えにくいと思われます。なお、引渡日に間に合わなかった場合、引越し業者は、損害賠償として、宿泊費などを負担しなければならなくなる可能性があります。

このように、法的な責任という意味では、遅刻や作業の遅れは過剰に気にする必要はありませんが、当然ながら、利用者からのクレームに繋がります。このため、遅刻や作業が大幅に遅れることがわかった時点で連絡を入れるなど、利用者に対する配慮が重要となります。

なお、引渡日が翌日以降にずれ込む可能性がある大幅な遅刻や作業の大幅な遅れが予想される場合は、引越し業者は、荷物の搬出に立ち会った利用者(=荷送人)に対して、遅滞なくその旨を通知し、指図を求めなければなりません(第15条第2項)。

利用者のための注意点:遅刻による補償は難しい

本条により、引越し業者は引渡日時に当然に荷物の引渡しに来てくれるのかとういうと、現実には、必ずしもそうではありません。

特に、長距離の引越しで、早朝からの引渡し作業の場合、引越し業者のドライバーが交通事情に精通しておらず、交通渋滞により遅刻することがあります。

ただ、実際に引越し業者が遅刻してきた場合であっても、その補償を求めることは、相当に困難であるといわざるを得ません。

というのも、引越し業者の遅刻や作業の大幅な遅れによる補償は、そもそも「見積書に記載した引渡日に荷物の引渡しをしなかったとき」が対象です(第26条第2項第2号参照)。つまり、「引渡日」のうちに荷物の引渡しがあれば、たとえ引越し業者が遅刻したとしても、補償の対象とならない可能性が高いといえます。

しかも、損害の対象は、「引渡遅延により直接生じた財産上の損害」が対象であり、「運賃等の合計額の範囲内」という制限までついています。

つまり、損害は財産上のものに限られ、精神上の損害(いわゆる精神的苦痛や慰謝料)は対象外です。また、遅刻や作業の大幅な遅れにより「直接生じた」損害であるため、実際に損害が生じていない場合は、補償の対象外です。

このため、引渡日に引越し業者が間に合わず、やむを得ずホテルなどに宿泊した場合など、実際に費用が発生した場合でもない限り、引越し業者から補償を受けることは難しいものと思われます。

最終更新日2011年10月20日