標準引越運送約款条文解説
標準引越運送約款第15条第2項(事故の際の措置)
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本頁では、標準引越運送約款第15条第2項(事故の際の措置)について解説しています。
標準引越運送約款第15条第2項は、相当部分または全部の荷物の滅失事故・毀損事故の発生時または大幅な遅刻が発生した場合における、荷物の搬出に立ち会った利用者に対する引越し業者の指図要求義務について規定している条項です。
標準引越運送約款第15条第2項(事故の際の措置)の条文
第15条(事故の際の措置)
1 当店は、荷物の全部の滅失を発見したときは、遅滞なくその旨を荷送人に通知します。
2 当店は、荷物の相当部分の滅失又は全部若しくは相当部分のき損を発見したとき、又は荷物の引渡しが見積書に記載した引渡日より遅延すると判断したときは、遅滞なく荷送人に対し、相当の期間を定め荷物の処分につき指図を求めます。
3 当店は、前項の場合において、指図を待ついとまがないとき、又は当店の定めた期間内に指図がないときは、荷送人の利益のために、当店の裁量によって運送の中止又は運送経路若しくは運送方法の変更その他の適切な処分をします。
4 当店は、前項の規定による処分をしたときは、遅滞なくその旨を荷送人に通知します。
5 第2項の規定にかかわらず、当店は運送上の支障が生ずると認める場合には、荷送人の指図に応じないことがあります。
6 当店は、前項の規定により指図に応じないときは、遅滞なくその旨を荷送人に通知します。
7 当店は、荷物の一部の滅失又はき損を発見したときは、荷送人の指図を求めずに運送を続行した上で、遅滞なくその旨を荷送人に通知します。
標準引越運送約款第15条第2項(事故の際の措置)の解説
趣旨
本項は、荷物の相当部分の滅失・全部もしくは相当部分の毀損があったとき、または引越し業者が大幅に遅刻しそうなときの、荷物の搬出に立ち会った利用者(=荷送人)に対する引越し業者の指図要求義務を規定しています。
引越し業者は、次の事態が発生した場合に、荷送人に対し、遅滞なくその事態の発生について通知し、相当の期間を定めて、荷物の処分について指図を求めなければなりません。
- 荷物の相当部分の滅失を発見したとき
- 荷物の全部または相当部分の毀損を発見したとき
- 荷物の引渡しが見積書に記載した引渡日より遅延すると判断したとき
本項は、例えば、津波・洪水などの天災で相当部分の荷物が流されてしまったことや、トラックの交通事故により、荷台が全壊して荷物の全部が毀損してしまったことなどを引越し業者が発見したときが該当します。
「全部滅失」「一部滅失」「一部毀損」は別
本項は、「荷物の相当部分の滅失又は全部若しくは相当部分のき損」となっていますので、全部の滅失、一部の滅失・毀損については適用されません。
全部の滅失については第15条第1項、一部の滅失・毀損については第15条第7項にそれぞれ規定されています。
遅刻はあくまで「引渡日より遅延する」場合のみ
本項により、大幅な遅刻が予想される場合は、引越し業者は、荷送人に対して、遅滞なくその旨を通知して、指図を受けなければなりません。
ただし、本項により引越し業者が指図を求める義務が課されている遅刻は、「見積書に記載した引渡日より遅延すると判断した」場合です。つまり、「見積書に記載した引渡日より」は遅延しない=引渡日のうちに引渡しができる程度の遅刻の場合は、引越し業者には、特に指図を求める義務はありません。
遅滞なくとは
本項における「遅滞なく」とは、正当な理由がある場合に限り、多少の遅れが許されるものの、そうでない場合はすぐに、という意味です。
このため、引越し業者は、荷物の相当部分の滅失や荷物の全部・相当部分の毀損を発見した場合や、大幅な遅刻が予想される場合は、何らかのやむを得ない事情によって通知することができないときを除いて、すぐに荷送人に対して、その旨を通知したうえで、指示を求めなければなければなりません。
引越し業者のための注意点:事故・遅刻があったら通知する
本項により、引越し業者は、荷物の相当部分の滅失や荷物の全部または相当部分の毀損を発見した場合は、荷送人に通知し、その指図を求めなければなりません。また、大幅な遅刻により、引渡日が翌日以降にずれ込むことが予想される場合も同様です。
本項が適用されるような「相当部分の滅失」、「相当部分または全部の毀損」という事態はまず滅多にあることではありませんが、利用者にとっては最悪の事態ですので、すぐに通知するべきです。
本項の指図については、状況によっては拒絶することができます(第15条第5項)。また、滅失事故・毀損事故の原因が利用者の責任や荷物の性質・欠陥である場合は、指図による処分について、追加料金や費用を請求できます(第20条第2項)。
なお、本項でいう「相当部分」という表現には、必ずしも画一的な基準があるわけではありません。このため、判断に迷った場合は、とにかく荷送人に通知して指図を受けるべきです。
また、遅刻に関しては、すでに述べたとおり、あくまで引渡日が翌日以降にずれ込むことが予想される程度の大幅な遅刻のみに本項が規定されます。
日を跨がないような遅刻であれば、約款上の義務としては、荷送人に通知して指図を受ける必要はありません。しかも、日を跨がないような遅刻の場合は、損害賠償の対象とはなりません(第9条・第26条第2項第2号参照)。
しかしながら、いくら約款上の義務がなく、また損害賠償の対象とならないとはいえ、長時間の遅刻が予想されるにもかからわらず連絡のひとつもいれないということであれば、利用者からのクレームの原因となります。
従って、遅刻の程度にかかわらず、利用者には連絡を入れるべきです。
なお、荷物の全部の滅失があった場合については荷送人対して通知しなければなりません(第15条第1項参照)し、荷物の一部の滅失・毀損があった場合についても、荷送人に対して遅滞なく通知しなければなりません(第15条第7項参照)。
このように、荷物の滅失・毀損があった場合は、その程度に関係なく、約款上は荷送人に通知しなければなりません。このため、荷物の滅失・毀損事故があった場合は、まずは荷送人に通知するようにしましょう。
なお、荷物の相当部分が滅失した場合や荷物の全部または相当部分が毀損した場合は、引越し業者としては、その滅失・毀損の原因が利用者の責任や荷物の性質・欠陥であるとき(第20条第4項参照)は、免責事項(第23条参照)に該当しますので、損害賠償の対象とはなりません。その他の場合は、損害賠償の対象となることがあります。
利用者のための注意点:事故の原因となる荷物は梱包しない
荷物の滅失・毀損があったかどうかや、大幅に遅刻しそうかどうかは、引越し業者にしかわかりませんので、利用者としては、引越し業者からの通知を待つしかありません。また、引越し業者がこの通知義務を怠ったとしても、特に約款上は何らかの請求ができるわけではありません。
なお、荷物の相当部分が滅失した場合や、荷物の全部または相当部分が毀損した場合は、その滅失・毀損の原因が利用者の責任や荷物の性質・欠陥であるとき(第20条第4項参照)は、引越し業者の免責事項(第23条参照)に該当しますので、補償の対象となりません。その他の場合は、補償の対象となります。
しかも、滅失・毀損の原因が利用者の責任や荷物の性質・欠陥である場合は、本項の指図による引越し業者の処分により、追加料金や費用が発生することもあります(第20条第2項参照)。
このため、滅失・毀損事故の原因となるような荷物(可燃性の燃料・爆発物など)を梱包してしまい、その結果として荷物の全部が滅失してしまった場合は、補償の対象となりません。この点から、事故の原因となる荷物は梱包するべきではありません。